“天然系 その3”
天然系には次の4種類があることを簡単に紹介しました。
○ 天然物を原料として合成した素材
○ 天然物と同一組成のものを化学合成または微生物合成した素材
○ 天然物から特定の成分を取出した素材
○ 天然物自体から溶剤などで抽出した素材および天然油
前回は、最初の「天然物を原料として合成した素材」について書きました。
今回は、2番目について書きます。
1 天然物と同一組成のものを化学合成または微生物合成した素材
天然物は、それなりに魅力がありますが、
★量的に少ないために高価となる
★地域、品種、天候などの影響を受けやすい
などの問題もあります。
それを補うために天然物と同一の化合物を化学合成または微生物
合成で製造する技術が開発されています。
その具体的な例を紹介したいと思います。
2 ヒアルロン酸、ヒアルロン酸Na
ヒアルロン酸は、細胞間隙に水分を保持することにより皮膚の
湿潤性、柔軟性を保つので保湿剤として使用されます。
1934年にウシのガラス体から分離、命名された多糖類です。
今はニワトリのトサカから製造されますが、微量しか存在しないこと、
タンパク質や他の多糖類と複合体を形成しているため分離・精製が
複雑で価格が高くなります。
微生物を利用した発酵法でも製造できるようになり広く利用される
ようになりました。バイオヒアルロン酸と呼ばれます。
化学構造はまったく同じです。
ヒアルロン酸またはヒアルロン酸Naの形で使用されます。
3 トレハロース
乾燥条件下で細胞を保護することが知られ広く活用されています。
毎年トレハロースシンポジウムが開かれるくらい研究が進んでおり
“命の糖質”と呼ばれます。
化粧品では保湿剤として使用され肌を保護し髪にしっとり感を与えます。
糖類なのでベタつくという感じを持たれるかも知れませんが、
シャンプーに配合すると毛髪の柔軟性を保ちながら、ベタつかない
使用感覚を得られるとの特許もあります。
http://andantelife.co.jp/bbs/ybb.cgi?list=pickup&num=720#720
動植物中に広く存在しますが微量であることが多く高価でした。
現在はすべて微生物を利用して製造しているので改めてバイオ
トレハロースという表現はみかけません。
食品用途が圧倒的で化粧品用途は少ないのと精製法が異なるためか
化粧品原料としての価格は極めて高いです。食用とは一桁違うのでは?
4 ヒノキチオール
殺菌効果があり薬事法で指定された防腐剤です。防腐剤としては低刺激性
ですが、独特のにおいもあります。
最近では毛髪発育・発生促進効果も着目されています。
ヒノキ油、ビバ油の中に存在し、ここから分離精製されます。
合成ヒノキチオールもありますが、化学合成法と推測されます。
5 BG
化学名は、1,3ブチレングリコールです。
保湿剤として広く利用され、グリセリンよりもさっぱりした感触です。
防腐性能がありますが、弱いので補助的に使われます。
従来は化学合成法で製造されていたものですが、最近はサトウキビや
トウモロコシ由来の発酵法で製造できるようになりました。
もともと自然界に存在したのかどうかはわかりません。
このため「天然物と同一組成のものを化学合成または微生物合成した
素材」という範囲には入らないかも知れませんが、自然派からは
歓迎されると思います。
6 プロパンジオール
化学名は1,3プロピレングリコールです。
プロピレングリコールという名称は同じですが、従来から使用された
PG(1,2プロピレングリコール)とは別のものです。
従来のPGは旧表示指定成分でしたが、プロパンジオールは別のもので、
同じ保湿剤として使用されます。刺激性はPGより低いと言われます。
もともと自然界に存在したかどうかは不明で、BGと同じ位置づけです。
7 フェノキシエタノール
防腐剤としてよく使用されているフェノキシエタノールは化学合成品
として扱われています。
しかし、玉露茶の成分として日本の研究者が見出したものです。
「天然物と同一組成のものを化学合成または微生物合成した素材」
という意味では天然系に加えてもよいものです。
従って「天然」と「合成」をわける意味がないことがお分かりと思います。
8 あんだんての取り組み
トレハロースが今回とりあげた天然系にあたります。
天然物の乱獲を防ぐ意味でも天然物と同一化合物を化学合成または微生物合成で製造する技術を活用すべきで、消費者の理解を得て行きたいものです。
“天然”にはいろいろな定義がありますが、「天然物と同一化合物を化学合成」したものも広く“天然系”としてとらえるのがよいと思います。
次回から “天然物から特定の成分を取出した素材”などをとりあげて行きたいと思います。
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